ご質問
はじめまして。私は48歳の会社員で、夫(51歳・会社役員)と大学生の娘、高校生の息子の4人家族です。
昨年、義父が他界し、都内西部エリアにある築25年のマンション(3LDK・70㎡・最寄り駅から徒歩8分)を夫が相続しました。相続時の評価額は約3,500万円でした。義母は10年前に他界しており、義父は一人暮らしをしていました。マンションの相続手続きが完了したところ、夫の兄から「マンションを売却して、その代金を兄弟で分配してほしい」と言われました。義父の遺言はなく、法定相続では夫と義兄が相続人となります。遺産分割協議の結果、預金は義兄が多めに取得し、マンションは夫が取得することで合意していたのですが、最近になって義兄から「やはりマンション分の現金も欲しい」と言われるようになりました。
このマンションは駅近で住環境も良く、将来的には子どもたちが使うかもしれないと考えていました。また、賃貸に出せば月々7万円程度の家賃収入も見込めます。ただ、修繕積立金が月額15,000円、管理費が月額12,000円かかっており、今年は大規模修繕も予定されているため100万円程度の追加費用が必要です。
義兄との関係も大切にしたいのですが、せっかく相続したマンションを手放すべきか悩んでいます。売却して分配すべきなのか、このまま所有を続けるべきなのか、ご意見やアドバイスをいただけますと幸いです。
回答
法的権利と道義的責任の狭間で考えるべきこと
ご相談ありがとうございます。相続問題は財産面だけでなく、家族関係にも大きな影響を与える重要な問題です。まず押さえておくべき重要なポイントは、遺産分割協議が既に成立しているという点です。
法律的には、一度合意した遺産分割協議を後から覆すことは原則としてできません。協議書を作成し、実印を押して印鑑証明書を添付するなど法的に有効な形で成立していれば、お義兄様の新たな要求に応じる法的義務はありません。
しかし現実には、法的な権利だけでなく、家族関係を長期的に維持するという観点も重要です。特に相続は感情的になりやすく、お金の問題が親族間の亀裂につながることも少なくありません。
マンションの価値と今後の見通し
まず、このマンションの資産価値を客観的に見てみましょう。
築25年、70㎡、都内西部エリア、駅徒歩8分という条件は、立地によっては依然として需要が見込める物件です。評価額3,500万円は相続税評価額と思われますが、実際の市場価値はこれより10~30%高い可能性があります。現在の不動産市況から考えると、4,000万円~4,500万円程度の売却価格が見込めるでしょう。
ただし、築25年という点は要注意です。建物の経年劣化は避けられず、今後の価値下落リスクもあります。特に築30年を超えると、融資条件が厳しくなり、売却時の価格にも影響します。
大規模修繕が予定されているとのことですが、修繕後は一時的に資産価値が上がる可能性もあります。ただし、修繕費用100万円の投資に対するリターンを考慮する必要があります。
それぞれの選択肢とそのメリット・デメリット
考えられる選択肢とその一長一短は、以下のように整理されます。
1. 現状維持(マンション所有を継続)
メリット:
- 将来の資産価値上昇の可能性がある(都内の好立地物件のため)
- お子様の将来の住まいとしての選択肢を残せる
- 賃貸運用で月7万円(年間84万円)の収入が見込める
デメリット:
- 管理費・修繕積立金で月27,000円(年間32.4万円)の固定支出が生じる
- 大規模修繕など追加費用が発生する
- お義兄様との関係が悪化しうる
2. 売却して分配する
メリット:
- お義兄様との関係改善が図れる
- 修繕や管理の手間から解放される
- まとまった現金を得られる(売却価格の半分程度)
デメリット:
- 好立地の不動産資産を手放すことになる
- 将来の資産価値上昇の機会を失う
- 売却手続きや税金の手間・コストが発生する
3. 一部買取り(お義兄様の持分を買い取る)
メリット:
- マンションを保持しながらお義兄様の要求にも応えられる
- 将来的な遺産トラブルを防止できる
- 完全に所有権を得られる
デメリット:
- まとまった資金が必要になる(約2,000万円前後)
- 資金調達のためのローン組みなどが必要になる可能性がある
- 投資対効果を慎重に検討する必要がある
4. 賃貸運用し収益を分配
メリット:
- マンションを手放さずにお義兄様にも収益を分配できる
- 資産価値を維持しながら定期的な収入を得られる
- 将来的な居住の選択肢を残せる
デメリット:
- 賃貸管理の手間が発生する
- 空室リスクや家賃下落リスクがある
- 修繕費などの支出分担で新たな争いが生じる可能性がある
具体的な解決策の提案
ご状況を総合的に判断すると、以下の対応が考えられます。
短期的な対応:
お義兄様と改めて話し合いの場を持ちましょう。その際、感情的にならず、数字に基づいた客観的な議論を心がけてください。遺産分割協議の経緯を確認し、預金分と不動産の価値バランスを再確認することが重要です。
例えば、預金がいくらで、お義兄様がそのうちいくら取得したのかを明確にします。マンションの評価額3,500万円に対して、お義兄様が預金から何割増しで取得していたのかを数値化すると話し合いがスムーズになります。
中長期的な対応の選択肢:
- 収益分配方式の提案
月7万円の家賃収入から管理費・修繕積立金の27,000円を差し引いた純収益(月約43,000円)の一部をお義兄様に定期的に分配する方法です。例えば、純収益の30~40%を分配すれば、お義兄様も定期的な収入を得られます。 - 段階的買取りの提案
お義兄様の「取り分」を明確にし、それを5年程度で分割して買い取る提案です。例えば、マンション価値の25%(約1,000万円)をお義兄様の取り分とし、年間200万円ずつ5年かけて支払うという方法です。 - 条件付き保有の提案
「5年後に子どもが使用しない場合は売却する」など、将来的な条件を設定する方法です。これによりお義兄様も将来の可能性を残せます。
さいごに
今回のケースでは、法的には既に成立した遺産分割協議を尊重すべきですが、家族関係を考慮すると何らかの対応が必要かもしれません。
想定される段取り:
- 遺産分割協議書の内容と法的効力を確認する
- マンションの正確な市場価値を不動産会社2~3社に査定してもらう
- 賃貸した場合の具体的な収支シミュレーションを作成する
- お義兄様の本当の希望(一時金が欲しいのか、継続的収入が欲しいのかなど)を確認する
- 弁護士や不動産の専門家に相談し、具体的な対応策を検討する
将来的に子どもたちが使う可能性があり、賃貸収入も見込める相続マンションは、単なる「物」ではなく「資産」として捉えることが大切です。感情的な判断ではなく、数字に基づいた合理的な判断と、家族関係という目に見えない価値のバランスを取ることが重要です。
最終的には、専門家(弁護士・税理士・不動産コンサルタント)のアドバイスも参考にしながら、ご家族で十分に話し合って決断されることをお勧めします。
コメント