マンションを相続した際、相続税や固定資産税、管理費などについては考慮されることが多いですが、「保険」の扱いについては見落とされがちです。相続マンションにかけられている火災保険や地震保険は、被相続人(故人)の名義のままでは適切な補償を受けられない可能性があります。本記事では、相続マンションの保険の取扱いと、見直すべきポイントについて解説します。
マンション相続時の保険の基本
故人の火災保険・地震保険はどうなるのか
マンションを相続した場合、故人が契約していた火災保険や地震保険は自動的に相続人に引き継がれることはありません。保険契約は「人」と保険会社の間で結ばれるものであり、契約者が亡くなった場合、基本的には以下のような扱いになります。
- 契約は当面有効であるものの、名義変更手続きが必要
- 名義変更をせずに放置すると、保険金請求時に問題が生じる可能性がある
- 保険期間満了時には更新できない
例えば、契約者が亡くなった後に火災や地震が発生した場合、名義変更手続きをしていなければ、保険金の受取人や請求権者が不明確となり、スムーズな保険金支払いが受けられないことがあります。
マンション特有の保険事情
マンションの保険は、一般的な戸建て住宅と異なる特徴があります。具体的には、共用部分と専有部分で別個の保険が適用されるケースが主流になります。
- 共用部分の保険(マンション管理組合の火災保険)
- マンションの共用部分(建物の構造部分、共用設備など)については、管理組合が一括して火災保険に加入していることが一般的です。
- この保険は居住者の死亡によって影響を受けることはなく、相続に関わらず継続します。
- 専有部分の保険(個人の火災保険・地震保険)
- 各住戸の内装や家財などの専有部分については、区分所有者が個別に火災保険や地震保険に加入します。
- この保険は相続による影響を受け、名義変更や契約内容の見直しが必要になります。
相続直後にすべき保険の確認事項
マンションを相続したら、まず以下の点を確認しましょう。
- 故人が加入していた火災保険・地震保険の契約内容と期間
- 保険証券の保管場所
- 自動振替などの支払い方法と口座情報
- 管理組合が加入している共用部分の保険の補償範囲
これらの情報を把握することで、適切な保険の見直しや名義変更の手続きを進めることができます。
相続後の保険見直しポイント
火災保険の見直し
相続マンションの火災保険を見直す際に考慮すべきポイントは以下の通りです。
- 契約者名義の変更
- 保険会社に連絡し、契約者を相続人に変更する手続きの流れ
- 必要書類(通常、相続を証明する書類(戸籍謄本、遺産分割協議書など)と、新契約者の本人確認書類です。)
- 補償内容の見直し
- 建物の評価額が適切か(築年数の経過による減価を考慮)
- 補償範囲(火災、風災、水災、盗難など)が必要十分か
- 特約の要否(個人賠償責任特約、借家人賠償責任特約など)
- マンション管理組合の保険との重複確認
- 管理組合の火災保険でカバーできる範囲(一般的に管理組合の保険は「建物」を対象としているため、個人の保険では「家財」や「個人賠償責任」を中心に考えます。)
地震保険の見直し
地震保険は、火災保険とセットでの加入が基本となります。相続後の見直しポイントは以下の通りです。
- 契約者名義の変更
- 火災保険と同様に名義変更手続きが必要です。
- 補償金額の確認
- 地震保険は火災保険の補償額の30%~50%の範囲で設定されます。
- 建物の評価額に対して適切な補償額になっているか確認しましょう。
- マンションの耐震性能の確認
- マンションの築年数や耐震性能により、保険料が異なる場合があります。
- 1981年以降の新耐震基準に適合している建物や、耐震等級が高い建物は保険料が割安になる可能性があります。
保険料支払い方法の見直し
故人が契約していた保険の支払い方法も確認が必要です。
- 口座振替の場合、口座名義人の変更または新たな振替口座の登録
- クレジットカード払いの場合、カード情報の更新
- 一括払いと分割払いのどちらが有利かの再検討
相続マンションの保険関連の手続きとその後
保険の名義変更手続きの流れ
相続マンションの保険の名義変更は、通常は以下の流れで行います。
- 保険会社への連絡
- 相続が発生したことを、保険会社に連絡します。
- 契約者変更の意向を伝え、必要書類について確認します。
- 必要書類の準備
- 戸籍謄本(被相続人の死亡を証明するもの)
- 遺産分割協議書または遺言書(相続人が複数の場合)
- 新契約者の本人確認書類(免許証、マイナンバーカードなど)
- 保険証券
- 契約内容の確認と変更
- 保険会社と契約内容について確認し、必要に応じて補償内容や保険金額を見直します。
- 支払方法の変更が必要な場合は、新たな口座情報などを提供します。
- 新契約の締結または変更手続き
- 保険会社によっては、新たな契約を締結する形になる場合もあります。
- 契約変更後の新しい保険証券を受け取り、内容を確認します。
相続マンションのその後と保険の関係
相続マンションのその後の活用方針によって、継続的または新規に加入する必要がある保険の内容も変わってきます。
- ご自身で居住する場合
- 一般的な居住用の火災保険・地震保険が適切です。
- 家財の価値に応じた補償額の設定が必要です。
- 賃貸に出す場合
- 賃貸借契約に伴うリスクをカバーする「家主賠償責任特約」を検討しましょう。
- 家賃収入補償特約(火災などで賃貸できなくなった場合の収入減をカバー)を付けることをお勧めします。
- 入居者の家財は対象外となるため、建物のみの契約でよいでしょう。
- 空き家として保有する場合
- 空き家特有のリスク(管理不足による劣化、第三者の不法侵入など)に対応した補償内容を選びましょう。
- 定期的な見回りサービスが付帯した保険商品を検討すると安心です。
- 売却予定の場合
- 保険への加入を見送るか、あるいは売却完了までの短期契約を検討しましょう。
- 最低限の補償内容(火災、落雷、破裂・爆発)に絞ることでコストが削減できます。
相続マンションの保険は、単なる手続き上の問題ではなく、資産保全と効果的な活用のための重要な要素です。適切な保険選びと定期的な見直しによって、安心してマンション資産を管理していきましょう。
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