マンションを相続する可能性がある方の中には、認知症や障害により判断能力が不十分なご親族の資産管理について懸念を抱える方も少なくありません。本記事では、そのような状況で活用できる「成年後見制度」について紹介します。マンション相続に関わる資産管理の観点から、この制度の仕組みと具体的な活用方法を説明します。
成年後見制度の基本的な仕組みと種類
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方々を法律的に保護し、支援するための制度です。大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
法定後見制度
法定後見制度は、すでに判断能力が不十分になった方のために家庭裁判所が後見人を選任する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、以下の3つの類型に分かれています。
- 後見型:判断能力が全くない状態の方を対象とします。後見人は財産管理や契約などの法律行為を本人に代わって行います。
- 保佐型:判断能力が著しく不十分な方を対象とします。重要な財産行為について同意権や取消権を持ちます。
- 補助型:判断能力が不十分な方を対象とします。本人の同意のもと、特定の法律行為について支援します。
法定後見制度を利用するには、本人、配偶者、四親等内の親族などが家庭裁判所に申立てを行います。申立てに必要な書類には、診断書、本人の戸籍謄本、住民票、財産目録などがあります。申立て費用は、書類作成や収入印紙代などで約1万円程度、そして鑑定が必要な場合は追加で5〜10万円ほどかかるのが一般的です。
任意後見制度
任意後見制度は、本人が判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分が信頼できる人を後見人として選び、サポートしてもらう内容を契約で決めておく制度です。
任意後見契約は公正証書で作成する必要があり、本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じます。この制度のメリットは、自分の意思を反映した後見人を選べることと、援助してもらう内容を自分で決められる点です。
マンション相続における成年後見制度の活用方法
マンション所有者やその相続人にとって、成年後見制度は様々な場面で役立ちます。ここでは、マンション資産に関連した支援の例を見ていきましょう。
マンション管理における支援
認知症などで判断能力が低下したマンション所有者に代わり、後見人が以下のような管理業務を代行できます。
- マンションの管理費や修繕積立金の支払い
- 管理組合の総会における議決権の行使
- 大規模修繕工事への同意や費用負担の決定
- マンション内での設備トラブル対応や修繕の依頼
これらの対応ができないと、滞納による延滞金の発生や、マンションの資産価値低下、最悪の場合は競売にかけられるリスクもあります。成年後見人がいれば、こうした不利益から本人を守ることができます。
マンション売却・賃貸における支援
マンションの売却や賃貸は重要な財産処分行為にあたるため、本人の判断能力が不十分な場合、成年後見人の関与が必要になります。
- マンション売却の場合
成年後見人が本人に代わって売却の判断や契約締結を行いますが、後見人単独の判断で行うのではなく、本人の生活状況や財産状況を考慮し、必要に応じて家庭裁判所の許可を得る必要があります。特に居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必須です。 - 賃貸管理の場合
空き家となったマンションを賃貸に出す際も、賃貸借契約の締結や更新、家賃の受け取りなどを後見人が行います。 - 相続対策としての活用
将来のマンション相続を見据えて、任意後見制度を活用することで、本人の意思を尊重した相続準備ができます。認知症などで判断能力が低下する前に、マンションの将来的な扱いについての意向を任意後見契約に盛り込んでおくことが可能です。
成年後見制度利用時の注意点とアドバイス
成年後見制度をマンション資産管理に活用する際の注意点やアドバイスをご紹介します。
制度選択のポイント
- 法定後見と任意後見の選択:判断能力の状態により適切な制度が異なります。まだ判断能力がある段階であれば、自分の意思を反映できる任意後見制度の検討をおすすめします。
- 後見人の選定:親族が後見人になる場合と、専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士など)が後見人になる場合があります。マンション管理や不動産取引の知識が必要な場合は、専門職の選任も検討しましょう。
- 費用対効果の判断:後見人には報酬が発生します。一般的に月額2万円〜5万円程度で、財産規模や管理の複雑さによって変動します。マンションの価値と比較して費用対効果を考慮することも大切です。
実務上の留意点
- マンション管理組合との関係:後見人が選任された場合は、管理組合に通知しておくことをお勧めします。総会の議決権行使や重要事項の連絡先として後見人の情報を登録することで、円滑な管理が可能になります。
- 固定資産税等の支払い管理:後見人は、マンションにかかる固定資産税や都市計画税などの公租公課の支払いも管理します。滞納が生じないよう、支払い時期を把握しておく必要があります。
- 定期的な財産状況報告:後見人は定期的に家庭裁判所に財産状況を報告する義務があります。マンションの評価額変動や修繕積立金の状況なども適切に報告する必要があります。
成年後見制度は、認知症などにより判断能力が低下した方のマンション資産を守り、適切に管理するための重要な手段です。制度の理解と事前の準備により、大切な資産を守りながら、本人の意思を尊重した管理が可能になります。将来的なリスクに備え、早めに検討してみてください。
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